People & Culture 01 Jun, 2020 読みやすい文字組、余白の美しさから、紙質や書体へのこだわりまで
glassyのデザイナー二人に、社内報のデザインのやりがいや、どんな楽しさがあるかをフリートークで語ってもらいました。glassyに入社する前は、それぞれ雑誌や書籍のデザインを手がける職場でキャリアを積んできた二人ですが、読みやすい文字組、余白の美しさから、紙質や書体へのこだわりまで、共通点は多いようです。
Profile
小菅(写真右)
大学文学部卒業後、デザインの専門学校でデザインを学び制作会社に入社。アウトドアなど趣味の雑誌のデザインを多数手がけ、2017年にglassyに入社。
石谷(写真左)
美術大学のグラフィックデザイン科を卒業後、制作会社に入社。主に女性向け雑誌・書籍のデザインを担当し、2019年にglassy入社。
-お二人がデザイナーをめざしたきっかけから聞かせてください
小菅
もともと絵を観るのも描くのも好きだったのですが、デザイナーは一部の感性がずば抜けている人がなるもの、と思い込んでいたので、大学は文学部を選びました。でも、そこで演劇サークルに参加し、宣伝美術の担当になって、ポスターやチラシ、パンフレットなどを作ったとき「あ!自分にもつくることができる」と感動したんです。同時に芸術学部の人と交流するうちに、アーティストが身近な存在に感じられ、本格的にデザインを学ぼうと、大学を卒業後専門学校に進みました。専門学校ではエディトリアルデザインが一番楽しくて、それで雑誌をデザインする制作会社に就職しました。
石谷
小菅さんはエディトリアルのどういうところに魅力を感じたんですか?
小菅
全面写真のページの後にじっくり読ませる文章のページがあったりと、複数のページを使ってストーリーを演出できるところでしょうか。石谷さんはどういうきっかけでデザイナーに?
石谷
私も小さいころから絵を描くことが好きで、美大に進学し、グラフィックを専攻しました。どの分野のデザインに進むかは迷っていたのですが、エディトリアルを選ぶ決め手になったのは絵を描くのと同じくらい小説などの本が好きだったことです。新卒で入った会社は、雑誌のデザインが主の中堅の制作会社で、その頃から、またその後転職した先でも、主に30~50代の女性をターゲットにしたライフスタイルや料理などの雑誌をデザインしていました。
小菅
話してみると、経歴が意外と似ていますよね。石谷さんとは共通の知り合いもいたり。
石谷
そうでしたね。
小菅
私も以前は中堅出版社の子会社で、サーフィンやアメカジ、自転車、それから山ガール向けの月刊誌など、趣味の雑誌のデザインを手がけ、次に勤めた個人事務所でもアウトドア系の雑誌を担当していました。glassyに入社したのは2017年で、今年で3年目になります。
石谷
私は入社してちょうど1年になりました。
-雑誌と社内報の違いは?これまでの経験はどんなふうに生かされていますか。
小菅
雑誌にはある程度フォーマットがあるのですが、社内報はルール決めから行うことが大きな違いですね。情報の整理が必要になるのは同じで、その点ではエディトリアルで鍛えられた考え方が役立っています。
石谷
小菅さんと同じで、前職での情報整理の基本が生かされています。
小菅
この文章には見出しが必要だとか、キャッチを入れた方がいいなとか、情報のカテゴリー分けの観点が養われますね。
石谷
そうそう、編集者の視点ですね。デザイナーとしてだけではなく。それから、わかりやすく見せるための技術、情報が魅力的に見えるデザインも求められます。
-こういうデザインが好きというのは、何かありますか。
小菅
社内報とはちょっと毛色が違いますが、ありますよ。
石谷
ぜひ聞きたいです。
小菅
「KINFOLK」というアメリカのライフスタイル誌です。写真も文章もとても洗練されていて、読み応えがあります。
石谷
知ってます、知ってます。素敵な雑誌ですよね。余白スペースがきれいで、写真も美しくて。
小菅
紙もまた良いんですよ。
石谷
紙のこだわりってありますか?
小菅
マット系が好きですね。
石谷
私もマット系は好きです。温かみがあるというか、ニュアンスがあるというか。
小菅
しっとりとした表現になるところがいいですよね。そのほかに書店でよく見るのは「POPEYE」とか「PEN」「TV Bros」などなど、ジャンルはバラバラですが参考になるところは取り入れています。
石谷
私は「アトモスフィア」という制作会社のデザインが好きで「Lalaビギン」とか「かぞくのじかん」「食べようび」などもすごく好きです。ターゲットの特性もあるけれど、とがりすぎていないところがいいです。かっこよすぎて読者層を限定する雑誌もあるけれど、読者と情報との橋渡しをしてくれていて、すごくうまい。やはり情報は相手に届かないと意味がないので。
小菅
エディトリアルでは、私も「アトモスフィア」さん、好きです。洗練されていながら『どうだこのデザインかっこいいだろ!』って見せつけるのではなく、万人にやさしいところがいいですよね。あとは「dancyu」などを手がけている「ナカムラグラフ」さんも。ちょっとしたあしらいや文字のメリハリから遊び心が感じられるんですよね。楽しくデザインしているんだろうなぁ、というのが伝わってきます。
-フォントについて、こだわりはありますか。
小菅
個人的にはプレーンな書体が好きです。私は、最近というか、ずっと気に入って使っているのは「DIN」「Trade Gothic」「Helvetica」など、シンプルで中性的なものが多いです。
石谷
和文フォントでは「こぶりなゴシック」をよく選びます。
小菅
いいですね。読みやすく組みやすくて、私も好きです。
石谷
読みやすくて、すっきり組めるところが気に入っています。洗練されつつ読みやすい。
小菅
あとデザイナーによって文字組みのクセってあるでしょう?
石谷
ありますねぇ。
小菅
ぎゅうぎゅうに詰める人もいれば、句読点のあとを少し開けたがる人とか、それぞれに個性があって。
石谷
一緒に仕事していると、お互いのクセは何となくわかりますよね。だからたとえば、ほかの人が手がけた仕事のフォローをするときは、そのクセに合わせたりします。
小菅
そうそう、企業ごとにメインの担当者が決まっているので、修正をサポートするときなどは、その人に合わせています。
石谷
ね、逆にいうと、組み方で誰の仕事かもある程度分かります。
-デザインのヒントとか、充電ってどうしていますか。
石谷
街に出ることですかね。商業施設とか、流行りの場所に行くと、いま求められていることを肌で感じることができるので。リーフレットも最先端のものがあるし、街のサイン類や看板なども刺激になります。
小菅
同じです。新しい商業ビルはいろいろなお店が集まっていて、刺激を受けますよね。私は銀座も結構好きで、旬なデザイナーの作品が見られるギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)にはたまに足を運びます。
石谷
gggはとても参考になりますね。銀座にはほかにも無料のギャラリーがたくさんありますし、肌で触れる機会は大切ですよね。
-では社内報を制作していて楽しいと感じるのはどんなときですか。
石谷
いろいろな企業を同時に担当できることです。雑誌は、ターゲット読者が変わらないので、どうしてもマンネリ化しがちですが、社内報は、お客さまによってご要望がさまざまなので、飽きるということがありません。多様なリクエストにお応えするのは、大変でもあるのですが、いままで経験したことがなかったので新鮮です。
小菅
商業誌のデザインをしていたときは、相手は編集者の方だけでした。でも社内報の場合は、いろいろな担当者がいて、それぞれの人柄とそこから社風を感じられるのも面白さの一つです。
石谷
わかります。
小菅
やり取りを重ねるうちに、好みとかもわかってきて、それに応えることができたときはうれしいですし、自分から提案したものを評価していただけたときは、やりがいを感じます。石谷さんはどうですか?
石谷
そうですね。お客さまが求めているものの先を見て、アイデアを提示できたらいいなと思っています。いろいろなお客さまのテイストに合わせるのはなかなか難しくて、日々勉強中です。期待を超えたところをできるようにならないといけないけれど、超えすぎてもダメ。求められている期待値を常に意識しないと。
小菅
私もまさにそんな感じで、お客さま自身も要望をうまく言葉にできないときに、それをくみ取る力が必要だなと思います。お客さまの指示の背景にある意図を読む力を磨きたいです。
石谷
努力のしがいがありますよね。
小菅
glassyは前向きな人が多いですよね。穏やかながんばり屋というか、みんな努力をしているけれど、苦しそうではない。石谷さんはこだわりがないと言っていたけれど、ときおり見せる遊び心がいいなと思っています。
石谷
個人的に、生きるうえでユーモアが大切だと思っていて、出せるときは出したいなと、いつもそんな気持ちでいます。
小菅
石谷さんのデザインにそれを見つけたときに、ほっこりしています。たとえばイラストのチョイスとか、書体はもちろんですが。
石谷
えぇ!書体もですか。イラストはなんとなく覚えがありますが。
小菅
たとえば吹き出しに使う手書き文字とかの選び方のセンスが石谷さんらしいなと思って。イラストもツボだったりします(笑)。
石谷
あ、わかりました、この間の筆文字ですか?和の内容だったので欧文なのに筆文字を使ったから。
小菅
そう、それです。ちょっとクスッとしました(笑)。
石谷
これ大丈夫かな…、このぐらいの遊びは必要かな…と思いつつ選んだので、評価していただけて良かったです。そういうちょっとしたことなんですよね。小菅さんは、書体の数を絞ってデザインする人で、私も基本的には同じですが、社内報に限っては例外もありますよね。書体の数はどうしていますか。
小菅
それはいまも試行錯誤している部分です。エディトリアルは、書体は多くても3つまで、がルールだったから、使い分けが結構大変で、でもようやくできるようになってきたかな。本文と見出しにはこの書体を使う、と先に決めてから、別の部分で異なる書体を選ぶようにして遊びを入れています。
石谷
なるほど!
-では最後に、お二人がデザインで心がけていることを教えてください。
小菅
葛西薫さんのデザインが好きで、「ユナイテッドアローズ」や「とらや」のリニューアルとか、そぎ落として、そぎ落として本質をついてくるのだけれど、とがっていない。そこがすごいと思います。以前、何かのインタビューで『万人に受けようとは思ってなくて、誰か一人に向けてピンポイントに伝わる表現を考えている。それが結果的に多くの人に受け入れられればいい』というようなことを語っていて、すごく共感しました。
石谷
それは小菅さんがつくるものにも感じます。私自身は小菅さんほど明確ではありませんが、心がけているのはお客さまに歩み寄ることですね。
小菅
歩み寄るのは大事ですよね。私はその中で、できるだけ情報をわかりやすく見せ、なおかつ余韻を持たせるのが好きで、余白をとることを大事にしています。でも、人によっては『ここスペースが空いてるじゃん!』って言われちゃう。そのバランスが難しいのですが。
石谷
特に社内報だと、もったいないって思われがちですよね。余白には説得力が必要なんだなって考えさせられます。
小菅
その余白に行きつくまでに試行錯誤を繰り返しているので、決まったときはすごく気持ちいいです。最近手掛けた某建設会社様の周年誌では、それを存分に発揮することができました。自由につくりながら、お客さまにも満足していただけた幸せな仕事です。
石谷
私自身はあまりこだわらないことが大切だと思っています。自分のデザインをしながら、お客さまに歩み寄るバランスを模索しています。
小菅
私もバランスを重視しています。商業誌でやってきたことと社内報は、やっぱりちょっと違っていて、要望を受け入れるデザインっていいなと思います。石谷さんには、そういう柔軟さがありますよ。
石谷
本当ですか!? ありがとうございます。この仕事をしていると、デザインがほぼ決まった後から『この情報も入れてほしい』というリクエストをいただくこともあるじゃないですか。でも、それはお客さまにとっては必要なものなので、できるだけ分かりやすくデザインしたいなと思っています。