Mission & Vision 23 Jul, 2019 これからのクリエーション、クリエイティブを考える。
ディレクターの森範子(写真中央)、そしてデザイナーの志手秀行(写真左)と小林良太(写真右)。さまざまな経験を積み、数多くのお客様と関わってきた3人が、これからのクリエーションはどうなっていくのか、専業として何をなすべきなのか、現時点における考察を語り合いました。
デジタルネイティブが、表現する手段を既に身に付けているなかで。
森
クリエイター、クリエイティブという言葉自体がもう、特別なものではなくなってきていますよね。広告やデザインをつくる人、商業的にアーティストとして活動する人がいわゆるクリエイター、みたいなイメージだったと思うんですけれど。今の若い世代、デジタルネイティブと言われる人たちは身近にツールを持っているし、自分たちで動画も作れるし、あまり専業に頼らなくても表現する手段を身に付けています。今までは餅は餅屋にという形で、専業はいろいろな事業が成り立っていたのですが、これからは各企業がそういう人を中に持てるので、自分たちでできてしまいます。だからこそ、外部に期待する、私たち専業に求められるものって、もっと質が変わってくるのかな、と感じています。
小林
2020年以降は、高校の教育でも情報デザインというのを組み込んでいくような話も出ていますしね。ということは、本当に一般化していくし、それを生業とする私たちも、専門性をどこに見いだしていくかということが課題になってくるでしょうね。情報収集であったりとか、編集力、デザイン力などで、お客様の課題というのをキャッチして、専門性を高めて提供していく。モノではなくてコトを提供する側に回らないと、プロフェッショナルという意味でのクリエーションというのは成立しなくなってくるのではないか、というのはありますよね。
志手
先ほど森さんも話していましたけど、デザインにおいてもAIやアプリが発達したことで、単純な絵って本当に誰でも作れてしまいます。それこそスマホでちょっとやったら、いいものができてしまう。自分ができているかと言ったらあれですけど、より本質的な部分を理解して、形を作っていくことに注力していかないと、デザイナーという職種自体が危機感あるというか…。オペレーションではなくクリエーションという、そこの差別化はちゃんと意識してやっていかないと、とは思いますよね。
小林
それと、glassyは「チューン」という言葉を使って表現していますが、時代に合わせて常にチューニングをしていくことが大切だと思います。著名なアートディレクターの方が「気づき」ということをおっしゃっていましたけど、まさにその「気づき」、目に見えないもの、気づいたものを提示しコトを提供していく、というのが、これからの私たち専業には必要なのかな、というのはあります。皆でどんなふうにクリエーションをするか、そのきっかけのところを問題発見する。そのうえで、それをいかにして課題解決へと導いていけるか。ひとつ上の層のところを汲み取っていくことが大事なのでしょうね。
森
そうですね。作られたモノというよりはコトを求めて、ですね。お客様におかれても「社内に何か作れる人がいるんだけれども、きちんと作れない。だから、やりたいことを整理してあげたいのだ」とおっしゃいます。それだけに社内報も、私たちで作るというよりは、協力しながら導いてあげるというか、お手伝いさせていただくというか。そういう方向の役割が求められているし、今後も増えるんじゃないかなと感じています。すごく若い感性があるんだけど、活かしきれていなくて。それをどうすればよいかをお客様と協業していくという方向で。
志手
いかにその役割を果たしていけるかですね。専業である私たちは、クリエイターの仕事としてエッジの効いたモノができればそれでいいというわけではなくて、ちゃんと厚みがある、実績のなかにアウトプットができるというような、そんなバックグラウンドをしっかりと持つことがより求められていくのかなと。そのためにはデザイナーも、営業やディレクターと同程度の知識を持つことが必要であり、逆もしかりですけど、「領域をまたいだ仕事」を意識していかないといけないと思いますね。ただ絵ができればいいということではなくて、ある程度の知見があったなかでの親和性を生み出していかないと、淘汰されていくのかなという危機感があります。あとの絵作りの部分は、それこそアプリなどでできてしまいます。そのへんをコントロールできるようなつなぎ役としての親和性を持っている、いろんなリテラシーを持っている、そういったことがよりいっそう必要になってくるのかな、という気がしています。
これからは「個の時代」であり、いかに個の力を高めていくかがカギを握る。
森
この間、お客様の役員の方のインタビューでも出てきて「本当にそうだな」と思ったんですけど、「これからは個の時代になる」というお話があって。「今までは企業ブランドというものがあって、自社が持っている技術力や特色のようなものがあればよかったが、今後はよりイノベーティブな発想ができる個がいて、面白いことができる人がいかにいるか、その個人でいかにクライアントというか顧客を掴むかが重要になってくる」というようなお話をされていて。
小林
企業から個に発注するという形ですよね。個の力を上げていきながら、その信用のバックグラウンドに企業があるという形。そういう逆転しているような図になってくるということですよね。
森
フリーのような形の働き方が、わりと容認されつつあります。これからの若い世代の人たちは、それが普通というか、わりと受け入れられるような人たちになってくると思うんですよね。その取引先なども含めて。そうなってきたときに、平均値はもちろん高くなければいけないんですけど、皆が同じデザイン、クリエイティブをするというよりも、何となく「この人に頼みたい」というのがあると、組織としても強くなってくるのかなと。
小林
そうですね。そうした個とコラボしながら、企業同士がうまくwin-winの形で仕事をしていければ、そのへんが崩れずに、強固になっていくのかもしれません。
志手
そうなると専業である私たち個々人も、お客様企業の特色をしっかりと把握し、作るものの制作意図をちゃんと理解し、結果にきちんと結びつけていく。そういうプロとしての仕事を、きっちりと果たしていかないといけないということですね。
小林
そのためにも志手さんが先ほど指摘した「領域をまたいだ仕事」をしていかないと、専業としての信用は積み上がらないでしょうね。専門性の高さを磨いていきながらも、総合性も身に付けていくというか。経営とクリエーションの両立みたいなところを踏まえた仕事をしていかないと、個の専門性も逆に失われてしまうと。僕はわりと数字が好きな方なんですが、専業としてはそこの領域まではある程度、踏み込まないといけないでしょうし、少なくとも誰かに指示されないと動けないような働き方に終始してしまっては、アプリやAIとの戦いとなってしまいます。デザイナーという職種でいえば、アートディレクターはなくならないけどDTPオペレーターはなくなるという領域に、すでに入ってきています。
森
デザインもコピーもコミュニケーションの手段の一つに過ぎず、そのコミュニケーションの形態が時代とともに変わってきている以上、私たちの仕事もそこに合わせて変わっていくべきなんですよね。普遍的なものももちろんあるとは思うんですが、時代や社会の変化に合わせていかないと、一方的な情報発信になってしまいます。私たちはアーティストで自分の作品を売っているわけではなく、基本的にはお客様の伝えたいものをどう伝えるか、ということを一緒にやってます。そこで伝える相手が変わったり、相手のコミュニケーションの形態が変わったら、やはり私たちもそれに合わせて変えていかなくてはいけない、変わっていかなければいけないと思います。志手さんはそのへん、すごく上手ですよね。こだわりが強くないからわりとスッと入って。
志手
そうですか(笑)。
スキルを活かした個人的な取り組みを、会社に還元できれば。
志手
ここまでの話を踏まえても、これからは専業として、ますますインプットする時間というのが確保できないと、底をついてしまいますよね。ちゃんとそういう時間を意識的に持たないと、と思います。
小林
クリエーションの高さをどこで担保するか、というのはアフター5じゃないですけど、社内外の交流や研修に率先的に参加しながら、キャッチしていく必要があるでしょうね。会社としても、そんな場を積極的に提示できれば社員にとってはありがたいことだと思います。
志手
そうですね。特に僕は、ある程度用意してもらえると助かります。
森
個人的な話ですが、私はボランティアで、豊洲にできたがん患者さんのための支援施設があるんですけど、そちらが発行している雑誌をプロボノでやっているんです。皆、編集者もカメラマンも全員ボランティアなんですけど、一緒に作っていて。自分のスキルを別のところで役に立てたいのです。
小林
それを再び職場に持ち寄って、そこでイノベーションを起こすというのは今後いっそう大事になっていくでしょうね。そのほうが個も立ちますし、会社としても幅が広がります。個人的な取り組みを会社に還元していくという働き方ができれば、仕事をさらに楽しく、充実させることができる。少なくともglassyだったら、それを実現できると思うんですよね。現にそうした基盤づくりをしている最中ですし。
森
そのためにも私自身、会社の教育スキームを再構築したいと思っています。今は刺激のある仕事ほど、経験のある人が担当されがちだと感じているんですね。お客様からご依頼の仕事になるので、それは仕方のないことですが。でも、それがすごくもったいないと思っていて。経験の有無にかかわらず社内で共有できる仕組みを作ることで、これからはglassyとしても個のレベルを上げていくところに注力していければと思います。
小林
そうですね。それが実現されれば、生産性を上げることにもつながりますね。
森
従来のクリエイティブの現場というのは、ともすれば「生産性を上げる」とうこととは対極にあり、根性で「エイヤッ!」と乗り切るみたいなところもあるのですが…。
小林
でも、やろうと思えば生産性は上げられるはずです。スクリプトを書く人がいて、ファシリテーションする人がいれば。
森
そうですよね、作る人と仕切る人。だから今後は専業として、スペシャリストとゼネラリストの両立を目指すことがカギを握る一方で、超スペシャリストという人も重要だし、会社としても大歓迎ですよね。
志手
そうですね、時代や社会の変化、それに伴う専業としての役割について話してきましたけど、一方で絵作りの楽しさみたいなものは、どんなにアプリやAIが発達しても、昔から変わらずにあります。デザイナーとして言えば、いろんな職種の人たちが携わっているんですけど、一番アウトプットに近いところにいて、見た人の印象を大きく左右する部分に関われるという楽しさと責任感みたいなところは変わりません。glassyも、今は社内報の制作が中心になっていますが、社内報はひとつのツールでしかなく、営業的にもこれから商材を広げていくとか、いろんなことにチャレンジする機会もあると思います。私自身もそこはやっていきたいです。
小林
社内報はglassyにとって入口に過ぎないですよね。アウター的なブランディングもそうですし、PRや広告も含めて厚みがある領域を全部、ひとつのお客様に対して網羅できるようなお付き合いができる会社にしていければ、専業としても個としても、アウトプットできるものもより深くなっていくと思うんです。glassyが担える領域を拡大しつつ、時代を乗り越えていけるような強いインパクト、高いパフォーマンスをお客様に提供できるような会社にしていきたいと思っています。